研究概要 |
90年代以降の日本の賃金・退職金の決定メカニズムおよび雇用調整のあり方に関して実証的に明らかにすることが本研究の目的である.日本の賃金・雇用に関する研究は多く蓄積されているが,退職金まで考慮したものはマイクロデータの利用可能性等の問題によりあまり行われていない.本研究は,企業レベルのモデル賃金・退職金データを財務諸表等の企業特性データとマッチングしたパネルデータを独自に作成して分析に用いることでこの分野の研究進展を試みるものである.本年度は,退職金制度等のサーベイ,集計データによる実態把握,企業別パネルデータの構築などを重点的に行った.パネルデータには拡張の余地があるため,データ構築作業は次年度も継続する予定である.このパネルデータを用いて,賃金と退職金の間にトレードオフの関係は存在するのかどうか,企業の生産性などによって退職金は影響を受けるのかどうか,退職金による離職抑制・促進の効果は存在するのかどうか,などについてパネル推定を行った.これらの試験的分析から得られた結果は,次年度に行う詳細な実証分析のための足懸りとなった.本研究は内部労働市場のミクロ的な分析を主眼としているが,外部労働市場やマクロ経済の変化が内部労働市場に及ぼす影響(あるいはその逆)を把握することが必要であると考え,マクロ的な分析も行った.具体的には,労働市場セクターを正規雇用と非正規雇用に分け,各々の賃金調整と雇用調整を内生化した四半期マクロ計量モデルを作成して,シミュレーション実験等を行った.現在,モデルの改良を行い,分析中である.
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