本研究では「波形インバージョン」と呼ばれる新しい高解像度のデータ解析手法を用いてD"層内の詳細な地震波速度モデルを推定することに成功した。そして、それを最新の鉱物物理学に基づいて解釈をすることにより、核マントル境界(CMB)に新たな制約を加えた。 まず、微細構造推定に適したモデルパラメータに対する偏微分係数の計算が必要である。そこで、1984年にTarantolaによって導出された理論の実装し、点(pixel)および球対称不均質(shell)に対して偏微分係数計算手法の開発を行った。それにより、実体波を用いた非弾性減衰(Q)を含んだ一般的な異方性媒質(独立な弾性定数は21個)に対する地球深部構造推定を現実的なものとした。さらに、局所的な構造推定のために必要な新しい震源観測点補正の方法の開発を行った。次に、理論的な感度の見積もりを行い、波線理論近似に基づく反射波を用いた解析の限界を示した。そして、実際に波形インバージョンによって太平洋下の1次元構造の推定を行った。 解像度の理論的な見積もりから、波線理論に基づくS波スプリッティング手法では、D"領域の異方性構造の制約は困難であり、これまでの異方性構造を再検討する必要があることを示した。そして、複数の震源観測点ペアからなる幅広い震央距離のデータセットを用いた波形インバージョン手法ならば推定することが可能であることを示した。次に実際に、トンガ・フィジーの深発地震を北米のUS-Arrayで観測した広帯域水平2成分地震波形を解析し、ハワイ下のD"領域の異方性構造の推定を行った。その結果、SV波がSH波よりも速い構造が得られ、それはマントルの上昇流の存在を示唆するものである。ハワイホットスポット火山の起源の論争に対して一石を投じた。
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