現在、日本を含め北半球の温帯部には100種以上のトリカブト属が分布している。トリカブトは古来より、食中毒事故を起こす毒草としても有名であり、その葉部でも誤食すれば、嘔吐、下痢、呼吸困難などを起こし、摂取量によっては死に至る。この中毒を起こす成分は、いわゆるトリカブトアルカロイドと呼ばれ、その量はブシあるいはウズと呼ばれるトリカブトの塊根部に多量に含まれている。レペニンは1991年キンポウゲ科トリカブト属ホナガウズより単離、構造決定されたジテルペンアルカロイドである。本化合物は高度に酸素官能基化された六環性化合物であり、3つの不斉四級炭素を含んでいる。その構造の複雑さから未だに全合成は報告されていない。今回、7位の立体化学のみを利用することで四級炭素を含む全ての立体化学を制御することを目的に合成研究を開始した。その結果、分子内ディールスアルダー反応を二度用いることで、4位および8位の四級不斉中心の立体制御に成功した。残る10位の四級炭素構築に関して、ニトリルオキシドおよびニトロンの分子内環化付加反応を用いた構築を検討したが、目的とする化合物は得られなかった。その他種々検討を行い、分子内1位10位に相当する二重結合の酸素官能基化に成功し、これを足掛かりとする10位四級不斉炭素の構築への可能性を示した。
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