研究概要 |
本年度においては、申請者はホスフィンスルホナート配位子を有するパラジウム錯体を用いた酢酸ビニルモノマーと一酸化炭素の共重合反応において、位置・立体・エナンチオ選択性の制御に成功した。配位子のリン原子上に不斉点を導入することで達成された。これは、酢酸ビニルを用いた配位挿入機構による重合反応において、立体選択的に進行した初めての例である。具体的には、P-キラルホスフィン-スルホナート配位子1とPd2(dba)3・CHC13の混合物を用い、酢酸ビニルと一酸化炭素の共重合を検討した。得られた共重合体の13C NMRスペクトルはケトン領域の203.4ppmに大きく鋭いシグナルを与えた。また、(S)-(-)-1を用いると、光学活性なγ-ポリケトンが得られた。これらの結果より、頭-尾結合かつイソタクチックな構造を多くもつ共重合体が得られたものと考えている。この選択性の起源についても詳細に調べている。まず、上記の配位子とメチルパラジウム前駆体、一酸化炭素を反応させることにより、対応するアセチルクロロパラジウム錯体を合成した。これに対して、銀トリフラート存在下で酢酸ビニルを反応させると、挿入反応が進行した。生成した混合物の中で、一つの異性体が83%という高い選択性で得られた。この主生成物の構造はNOE測定を含む各種NMRと、予備的なX線結晶構造解析から行っている。この構造から、酢酸ビニルの挿入は2,1-の向きであり、挿入の遷移状態においてエステル基が嵩高いビフェニル基を避けるように進行していることが分かった。 以上の結果は、これまでの研究をさらに発展させ、新規に立体制御が当配位子設計で可能であることを示したという点で、意義深い。
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