所属研究室では、通常の20種類のアミノ酸とは異なる化合物(特殊アミノ酸)をリボソーム内で連結することで、多様な化合物ライブラリーを構築することを目指している。本研究では、炭素-炭素結合(以下C-C結合)形成をリボソーム内で行うことにより構造多様性の高い化合物ライブラリーを構築する技術の確立を目指した。また、主鎖構造はアミド結合であるものの特殊な側鎖を有するペプチドライブラリーを構築し、そこからの生理活性ペプチドの探索も行った。 まず、カルボアニオンを形成しやすいアシルtRNAを用いてC-C結合形成を試みたが、炭素-炭素結合は形成されなかった。続いて、リボソームのP部位側の基質の求電子性を向上させることでC-C結合形成を試みた。求電子性の高い基質として、ギ酸などが連結した複数種のアシルtRNAを用いたが、いずれの場合にもC-C結合の形成は見られなかった。 続いて、トリフルオロアセチルリシン(^<Tfa>K)という特殊なアミノ酸を含有するペプチドライブラリーを翻訳によって構築し、mRNAディスプレイ法によるスクリーニングを行うことで、サーチュイン(脱アセチル化酵素)の阻害ペプチドの探索を行った。この結果、SIRT2に対して強く結合するペプチド配列を得ることに成功した。SIRT2は近年、神経変性疾患などの疾患との関連が明らかにされており、今回取得したペプチドは、こうした疾患への治療薬としての可能性や疾患発症におけるSIRT2の役割の解明などに役立つことが期待される。
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