不斉発現には不斉炭素原子の他にも、ビナフトールの軸不斉のような分子不斉が近年注目されており、本研究ではそのような軸不斉分子を用いたらせん高分子の構築や機能化を行ってきた。一方、ロタキサンは環状分子に軸状分子が貫通し、その軸状分子の両末端を輪成分の内孔よりも大きな置換基で封鎖した分子であるが、輪成分、軸成分ともに非対称なものを用いると各成分がアキラルであっても構造上の分子不斉を発現する事が知られている。この分子不斉はこれまでにほんの数例の報告例があるだけでそれを何かに応用したと言う例は報告されていない。我々は研究の過程でロタキサンの分子不斉を用いてポリアセチレンの片巻きらせん構造が非常に効率よく誘起できる事を見いだした。これはキラルな分子を一切用いずにキラルな高次構造を誘起できた事を意味し、非常に興味深い。また、この分子不斉ロタキサンの軸成分の末端をポリアセチレンに結合させ、輪成分の主鎖からの遠近を制御することにより、ポリアセチレンのらせん構造を制御する事も可能である事も明らかとなった。すなわち輪成分が主鎖近傍に存在する時は片巻きらせんが誘起されるが、輪成分が主鎖から遠方に存在する時には片巻きらせん構造は誘起されない事がわかった。これはアキラルな輪成分の位置を制御することによりらせん高分子のキラル構造を制御できたことを意味し、非常に興味深いと考えられる。また滴定実験によりこの片巻きらせん誘起関しては、輪成分が非常に高密に主鎖に接近していないと片巻きらせん構造が誘起されないことも見いだした。
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