研究代表者は、前年度までの研究で、再解析データと衛星観測データを用いて、エルニーニョ/南方振動現象よりも、インド洋熱帯域のダイポールモード現象が、チベット高原における初冬の積雪面積に影響を与えることを示唆した。今年度は、そのメカニズムの詳細を3つの手法によって調べた。 1.松野-Gillモデルにより、ダイポールモード現象に伴う西側の正の非断熱加熱偏差が、赤道から少し離れた場所の上空に高気圧性偏差を形成することが明らかになった。特に、非断熱加熱偏差の北西側にできる高気圧性偏差は、アラビア半島上空に形成される。アラビア半島上空に見られる高気圧性偏差は、観測データと整合的であった。 2.11-12月の基本場を用いて、ロスビー波のレイ・トレーシングを行ったところ、アラビア半島上空を波源とする定在ロスビー波は、チベット高原の上空では、低気圧生偏差となることが明らかになった。 3.大気大循環モデルを用いたアンサンブル実験を行った。具体的には、海面水温の月平均気候値で駆動した場合とインド洋熱帯域のみダイポールモード現象に伴う海面水温偏差を与えた海面水温で駆動した場合の比較を行った。その結果、ダイポールモード現象の西側の極で正の降水偏差が生じ、これによって、アラビア半島上空に高気圧性偏差が形成されていた。また、ここがロスビー波の波源となり、チベット高原の上空250hPaでは、低気圧生偏差が形成された。この低気圧生偏差により、インド洋からの湿った空気がチベット高原で収束するようになることも明らかになった。そして、この水蒸気フラックスの収束が、チベット高原における初冬の降雪を増大させていることがわかった。
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