研究概要 |
高屈折率高分子材料は、軽量性・加工性に優れ広く用いられている。一般的な高分子の屈折率は1.3-1.7であるが、近年の光学デバイスの発展に伴い、そのような分野で用いられる高屈折率材料には非常に高い屈折率やその他の物性が求められるようになってきている。高屈折率化には、分極率の高い元素・構造の導入が有効であり、フッ素以外のハロゲン・硫黄元素・金属元素・ベンゼン環などがそれに当たる。ポリフェニレンスルフィドは硫黄とベンゼン環のみからなり、高屈折率が期待されるが、溶解性が低いという問題がある。本研究では、分子量の調整により溶解性を高めたチアンスレン含有ポリフェニレンスルフィド(TPPS)を合成し、それらの熱特性・光特性の評価を行った。 TPPSの重合は、反応混合物からの共沸脱水を行った後、芳香族求核置換反応により190℃で行った。また、分子量の調整はモノマーの仕込比を変えることにより行った。高分子量のTPPSは不溶である、あるいは非常に溶解性が低いが、数平均分子量を5,000-10,000まで低下させることで、1,3-ジメチルプロピレン尿素あるいは1、1,2,2-テトラクロロエタンなどに可溶となった。熱特性評価として、5%重量減少温度とガラス転移温度を測定したところ、いずれの値からも今回合成したTPPSが高い耐熱性を持っていることがわかった。次に光特性として、透明性・複屈折・屈折率を評価した。400nmにおける透過率は69-93%であり、可視光領域で高い透明性を有していることがわかる。また、チアンスレンの屈曲した構造のため、複屈折も低い値に抑えられている。それぞれのTPPSの屈折率は、高い硫黄含有量を反映し、1.7856-1.8020と非常に高い値を示している。最も高い屈折率を持つTPPSは、透明な高分子で屈折率1.8を超える初めての例となった。
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