研究概要 |
デジタルカメラなどに用いられるレンズ用高分子材料としては、高屈折率であることと共に屈折率の低波長分散性(高アッベ数)が求められる。しかしながら、一般的に透明樹脂において、屈折率とアッベ数は二律背反の関係にあり、高分子・高アッベ数を同時に達成するのは困難であるとされている。当研究室では、スルフィドとスルホンを同時に導入したポリチオエーテルスルホンが高屈折率・高アッベ数を示すことを見出しており、様々なポリチオエーテルスルホンを開発してきた。しかしながら、その柔軟な構造のために、いずれのポリチオエーテルスルホンもガラス転移温度が低いという問題があった。そこで、今年度の研究では、それを解決するため、剛直な構造のトリシクロ[5.2.1.0^<2,6>]デカン骨格を含むジチオール・ビスビニルスルホンを設計・合成し、新規ポリチオエーテルスルホンを開発することを目指した。実際にはトリシクロ[5.2.1.0^<2.6>]デカンジチオール及びビス(ビニルスルホニル)トリシクロ[5.2.1.0^<2.6>]デカンをジシクロペンタジエンからそれぞれ2,3段階で合成した。続いてそれぞれのモノマーをジビニルスルホン及び2,5-ビス(スルファニルメチル)-1,4-ジチアンとマイケル付加により重合させ、二種類のポリチオエーテルスルホンを得た。それぞれのガラス転移温度は74,113℃と、これまでのものに比べ大幅に改善された。また、それらは、屈折率1.605,1.623、アッベ数48.0,45.8という高い値を示すこともわかった。特に後者のポリマーは高屈折率・高アッベ数と共に、レンズ材料として実用化に耐えうる高い耐熱性を持つことから、非常に有用な材料であることが示された。
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