研究概要 |
平成21年度の研究では金属/(Ga,Mn)As構造において、磁化の光誘起才差運動の検出を行った。狙いは、光照射によって(Ga,Mn)Asに与えられた角運動量を金属中の伝導電子系に輸送して、強磁性「半導体」から「金属」へのスピン流の存在を確立することである。具体的には、(Ga,Mn)Asに金属薄膜(PtとFe)を蒸着し、隣接膜効果を用いた才差運動(才差運動の継続時間、振動周波数)の制御を試みた。 はじめに、Ga0.955Mn0.045As層にスピン・軌道相互作用の大きいPt薄膜を堆積させた試料を用いて実験を行った。断面TEM観察により、Ptと(Ga,Mn)As界面の粗さは1nm以下であることに加え、Ptと(Ga,Mn)Asの界面には自然酸化膜(1~2nm程度)が存在することがわかっている。光誘起才差運動の実験の結果より、Pt膜厚の増加とともに才差運動の振動周波数は減少し、ダンピング定数は増加することがわかった。金属と(Ga,Mn)Asの間にスペーサー層を導入した、金属/GaAs(2nm)/AlAs(10nm)/(Ga,Mn)Asを作製し同様の実験を行ったところ、振動周波数およびダンピング定数に変化は見られなかった。 以上の結果より、Pt薄膜により(Ga,Mn)As表面の歪みが緩和したため振動周波数が減少した可能性、ダンピング定数の増加はスピンポンピング効果により生じている可能性が示唆されている。Pt薄膜以外にも、強磁性金属であるFeを蒸着した試料においても同様の結果が得られた。
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