本研究課題では、スピン分極率100%のハーフメタル・フルホイスラー合金をソース・ドレインとして用いたスピンMOSFETの基盤技術の創出を目的とする。今年度は特にフルホイスラー合金薄膜の規則構造評価と、それを用いたスピン注入・検出用デバイスの設計/作製をおこなった。フルホイスラー合金薄膜は、完全に規則化したL2_1構造から、原子の入替などの不規則化が生じるとスピン分極率が低下し、ハーフメタル性は劣化する。そのため、不規則構造の評価は非常に重要となる。本年度ではフルホイスラー合金の不規則構造に、異なるモデルに基づいた2つの解析手法を用いてアプローチし、解析モデルの提案と実際の評価を行った。まず、規則度によって不規則構造を表すWebsterモデルを拡張し、フルホイスラー合金の規則度(L2_1規則度、B2規則度)を厳密に定義した。規則度は、Cu線源X線回折(XRD)超格子線強度を精密に測定し、評価した。その結果、本研究課題で形成したCo_2FeSi薄膜は、L2_1規則度83%、B2規則度97%の高い値を示し、バルク試料と同等の高い規則度を有していることを確認した。次に、拡張Websterモデルでは求めることのできないDO3ディスオーダーを、NRBBモデルを用いて評価した。DO3ディスオーダーは、スピン分極率を著しく劣化させるが、従来のCu線源XRDでは検出することができなかった。本研究では、Co線源XRDとCu線源XRDを組み合わせた定量評価手法を提案し、NRBBモデルを用いて解析した。規則度の最も高いCo_2FeSi薄膜で、DO3ディスオーダーパラメータは0.04となり、結晶中のDO3ディスオーダーは非常に少ないことがわかった。年度の後半では、スピン注入/検出用デバイスの設計を行い、作製した。このデバイスは、最近の研究結果を元に、当初計画していたデバイスから、界面構造・デバイス構造を変更してある。
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