GLUT4は脂肪・筋におけるインスリン作用に最も重要な蛋白質の一つである。この蛋白質は、インスリン依存的に細胞内の貯蔵部位から細胞膜へと移行して生理作用を示す。現在までにGLUT4の細胞膜移行を調節する因子群は多く同定されてきたが、細胞内におけるGLUT4動態そのものについては未解明な点が多く残されていた。そこで、私たちは近年、極めて安定な蛍光ナノ粒子Qdotを用いて3T3-L1脂肪細胞におけるGLUT4の細胞内動態を一分子レベルで定量的に追跡できる系を確立した。この方法により、基底状態におけるGLUT4の動的実体やインスリン刺激時の動態変化、インスリン抵抗性下におけるGLUT4動態異常について定量的な記述を可能とした。本年度は、本手法を用いて3T3-L1脂肪細胞分化に伴うGLUT4動態変化とその分子基盤について解析を行った。まず、GLUT4一分子動態は3T3-L1脂肪細胞分化に伴って大きく変化し、一般的なリサイクリング蛋白質との比較により、GLUT4選択的な繋留機構の形成過程を一分子レベルで検出した。この過程には脂肪細胞分化に伴って発現が上昇する蛋白質sortilinが関与し、未分化細胞にこの蛋白質を過剰発現させることで分化した脂肪細胞におけるGLUT4動態と類似の動態を示した。さらに、この蛋白質の変異体を用いることで、この繋留機構にはGLUT4のエンドソームからトランスゴルジ網への逆行性輸送が関与することを見出した。加えて、インスリン依存的なGLUT4動態変化にはさらに別の蛋白質が関与することも見出している。
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