本研究課題は、2011年3月の東日本大震災への対応により研究期間が一年延長され、本年度が最終年度となった。昨年度までに、3T3L1脂肪細胞に存在するGLUT4の繋留機構とインスリンによる解放作用を見出し、それぞれVps10pソーティングレセプターであるsortilinとインスリンシグナル伝達下流で活性が調節されるRabGAPであるAS160が必須であることを見出してきた。そして、GLUT4輸送システムの未成熟な3T3L1繊維芽細胞にこれら二つのタンパク質を発現させることで、成熟したGLUT4輸送システムを再構成したモデル細胞を構築できることを発見した。本年度は、GLUT4輸送を調節するもう一つの重要なRabGAPであるTbc1d1の作用について、モデル細胞を用いて詳細に解析した。その結果、Tbc1d1発現細胞ではAS160発現細胞と異なりインスリンに応答してGLUT4を繋留から解放させる作用は示されず、一方でAMPK活性化刺激によってGLUT4解放が誘導された。AMPK活性化刺激を除くとGLUT4は再繋留されるが、ここにインスリン刺激を行うと、興味深いことに再繋留されたGLUT4は顕著に解放された。また、インスリン刺激のみを与えた細胞に、続いてケイジドカルシウム試薬の光活性化によって細胞内カルシウム濃度上昇を与えると、GLUT4の解放が観察された。すなわち、上記のような逐次・複合刺激を行うことによって、Tbc1dlのGLUT4輸送調節様式が遷移し、インスリン応答性を獲得できることを見出した。このような過程はTbc1d1のN末に存在するPTB領域に依存し、この領域に存在する肥満関連変異ではインスリン応答性の獲得が選択的に失われていた。このTbc1d1の調節様式遷移が運動効果(運動によるインスリン作用の向上)や病態と関連する可能性を示唆する。
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