研究概要 |
本年度は、『サーンキヤ頒』(Samkhyakarika, SK)に対する注釈書『論理の灯火』(Yuktidipika, YD)における認識論を解明する一過程として知覚の問題に焦点を当て、現在散逸したサーンキヤ文献『六十科論』(Sastitantra, ST)や姉妹学派であるヨーガ学派の文献『ヨーガ経注解』(Yogasutrabhasya, YSBh)における知覚論との比較を通じてYDにおける知覚論の特質を浮き彫りにした。YDは、思考器官(manas)による精神性の付与や感覚器官による外界対象への変容、認識手段としての統覚(buddhi)と認識結果としての精神原理(purusa)の区分など他のサーンキヤ文献には見られない特徴的な知覚論を展開しており、その点においてYDはYSBhやSTと共通している点が明らかになった。特に、STは近年発見されたばかりのサンスクリット写本を用いた『認識手段集成細疏』(Pramanasamuccayatika)の校訂テキストに見られる断片を使用したため、サンスクリットテキストを中心としたSTの研究は国内外においても初めてであり意義深いものとなった。STは知覚に関してSKと見解を異にしているにもかかわらずYDとの共通点が見られるという点は非常に重要であり、これら三者の解読を通じて、YDの知覚論およびその特異性、そして三者を結ぶ思想史的連絡がよりいっそう明確になり、その成果は2本の論文に発表することができた。当初はこの正しい認識に加えて誤知の問題に関しても研究を進める予定であったが、この知覚論の研究はサーンキヤ思想史におけるYDの位置づけを知る上でも重要な一基盤となりうると考えられる。また、研究交流として14th World Sanskrit Conferenceに参加し、国内外の研究者の発表を通じて様々な知見を広げることができた。
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