申請者は先にアシルテトロン酸天然物であるマクロシジンAの全合成を達成しているが、合成効率の面で改善の余地が残されていた。そこで、合成経路の改良を行った。具体的には、三置換オレフィンの水素化による、C12位の不斉中心の制御について再検討した。スイス・バーゼル大学のA.Pfaltz教授との共同研究の結果、光学活性なイリジウム触媒を用いると、水素化が高収率、高立体選択的に進行することを明らかにした。その際、エポキシド部位が水素化の条件で分解してしまうという問題に直面したが、種々検討した結果、よい解決策を見出すことができた。すなわち、エポキシドを一旦ヨードヒドリンへと変換した後に水素化を行い、改めてエポキシドを再生する経路を開拓することに成功した。さらに合成経路に改良を加え、より効率的に天然物を合成することに成功した。 また、スピロテトロン酸天然物の合成研究として、これら化合物群によく見られる構造単位であるシクロヘキセン構造の構築法の開発を行った。この課題の解決策として、新規共役ジエンを設計し、その合成法を開発するとともにその反応性に関して検討した。すなわち、電子供与性基と電子求引性基を併せ持ち、かつ環状構造を有する新規共役ジエンを合成し、その反応性について検討した結果、電子不足および電子豊富なジエノフィルのどちらとも室温下で円滑に反応することを明らかにした。この手法は、様々な環状化合物を合成するための有用な合成手法となりうると期待される。
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