2つのピリジル基を有するキラルな両親媒性ヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体をキラルなBINAP/Pt(II)と錯形成させることで、HBCのπ-スタッキングの様式を立体化学的に偏らせることに成功した。これにより、HBCから超分子的に形成されるナノチューブのらせんを配位子となるBINAPの絶対立体配置に応じて、右巻きあるいは左巻きに偏らせることができる。さらに興味深いことに、このようにして形成された一方巻きらせんを有するナノチューブは、BINAP/Pt(II)をナノチューブの内壁・外壁から除去した後もその一方巻きらせん構造を完全に維持しており、不揮発性のキラルメモリーとして働くことが明らかとなった。一方巻きらせん性のナノチューブは別のアキラルなHBCの集合化における起点となるため、このらせん性ナノチューブの両端にアキラルなHBCのナノチューブをヘテロに接合させることが可能である。驚くべきことに、らせん性のナノチューブから成長した新たなナノチューブのブロックは、その構成要素であるHBCがアキラルであるにもかかわらず、一方巻きのらせん性を示すことが見出された。これは、BINAPなPt(II)のキラル情報が種となるナノチューブに翻訳され、さらにヘテロ接合を介してアキラルなHBCナノチューブに転写されたことを示している。このようなナノスケールにおけるキラルメモリー、キラル転写は前例がなく、超分子化学の新たな側面を映し出す結果である。
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