研究概要 |
本研究は、国家による強制的なヴェール着用/非着用の問題をイスラームの教義・思想との関連から考察するものである。具体的には、現代のエジプトとサウジアラビア、イスラーム革命後のイランにおける一定の形のヴェール着用の制限や義務化を事例として取り上げる。それぞれについて、(1)どのような主体(機関や組織)が、(2)どのような根拠を提示しつつ、(3)どのような法的・制度的手続きを経て、(4)どのような形のヴェールの着用/非着用を強制し、それが(5)ヴェールを着用する主体である女性にどのような影響を与えてきたのか、という五つの観点から検討する。 本年度はエジプトとサウジアラビアに関する事例を扱った。エジプトについては、教育現場における顔覆い着用の制限や禁止の問題に注目した。カイロで行なった調査では、同措置の是非をめぐる裁判資料(具体的には、アイン・シャムス大学[1989/7/1, no.1316/1905]と、カイロ・アメリカン大学[2007/6/9,no.3219]に関する判例)を蒐集し、その読解と考察を行なった。 サウジアラビアでは2002年、メッカの第三女子高等学校で火災が発生し、避難しようとした女子生徒や職員に対して、ヴェール(アバーヤと呼ばれるワンピースと頭髪を覆うスカーフ)を着用していないという理由で、「宗教警察」が脱出を妨害し、結果として多くの死傷者が出るという事件が発生した。本年度の調査では、リヤドにある高等学術機関キング・ファイサル・センター(King Faisal Center for Research and Islamic Studies)を受入れ先として、市内における女性の衣服や行動の観察と、図書館や行政機構(Ma'had al-Idara al-'Amma)、書店での文献蒐集を行なった。
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