本研究においては、規制行政など、社会管理活動における官民協働について、その具体的手法、政策プロセスの実態、体制・制度設計のあり方などに焦点を当てて、主として3つの側面から検討を進めた。 第1に、官民協働に関する既存のモデルや理論に関する予備的検討を行った。「官民協働による行政」を捉えるモデルに、さまざまな主体とそれぞれの規範が相互に連関し合うメカニズムとしての「レギュラトリー・スペース」があり、特にその中での政府の役割についての議論を整理するとともに、官民の合意形成プロセスに注目した近年の先行研究から、多数事例の逐次比較によるモデル構築という方法論上の知見を得ることもできた。 第2に、具体的な事例の観察と分析を進めた。例えば、建築規制については、木造住宅に対する規制緩和を取り上げ、これまで指摘されることの多かったその国際的要因に加えて、国内の住宅需要・供給市場に由来する要因を抽出した。規制体制の設計に関しては、行政組織論の視点から規制行政機関の独立性に着目し、原子力安全委員会や消費者委員会などの実態分析と組織設計のあり方を検討した。燃料電池自動車の社会導入・普及政策については、官民からなるガヴァナンス・ネットワークを管理・運営する「メタガヴァナー」の概念を取り上げ、技術的・社会的不確定要素が多い中での「メタガヴァナー」の役割と限界について、事例研究を行った(この成果は、『社会技術研究論文集(Vol.7)』に発表した)。 第3に、これまで観察してきた具体的事例の横断的な比較分析に取り組んだ。『国家学会雑誌(第122号第9・10号)』に発表した自動車安全規制をはじめ、いずれの事例においても、官民協働による社会管理の体制はさまざまな要因から変容を迫られており、今後分析すべき論点の抽出と考察の方法論の検討を進めた。
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