本研究の目的は、多民族化する社会における世論の代表と外国籍市民との接点を探るべく、民主主義と世論の代表形態の関係について検討を行うことである。本年度の研究では、制度的局面から世論の代表形態の変遷を考察するにあたり、大きく3つの軸に分けて作業を遂行し、研究の基本的な分析視角と検討の方向性を確認することができた。第1の軸は、日本における世論の代表形態の変遷を歴史的に分析するものである。その際、今日、世論の主要な代表形態とされる世論調査に焦点を当て、戦後民主主義とともに見直すことで、世論を調査する側の論理を実証的に明らかにした。成果は、「世論調査の視座構造に関する歴史的考察」として、『マス・コミュニケーション研究』に掲載された。また関連して、世論調査の公共性と調査主体の問題について検討を行い、その成果は、「戦後日本における世論調査機関に関する歴史的考察」という題目のもと、日本社会学会年次大会で報告された。第2の軸は、近年、世論の新たな代表形態として試みられている、住民投票やDeliberative Polling等の動向を考察するものである。本年度は、それらの活動に取り組む自治体への調査を実施し、資料の収集と整理が進められた。第3の軸は、第1と第2の軸を踏まえた上で、世論の代表と市民概念について理論的検討を行うものである。本年度は、基礎的な文献資料を収集し、制度/非制度の観点から、世論の代表に関する議論を整理した。その一環として、コミュニケーション研究の展開に検討を加え、戦後日本の世論形成における市民の布置と代表をめぐる諸論点を考察した。成果の一部は、Inter-Asia Cultural Typhoonにおいて、"The Idea of 'Communication' and its introduction to Post-War Japan"という題目のもと報告された。
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