研究概要 |
現段階で、脊髄完全損傷者が歩行機能を再獲得できる可能性は極めて低い。しかしながら、近年、幹細胞移植など神経再生に関する基礎研究が進み、臨床的にも受傷脊髄への応用が可能になる日も近いとされている。しかしながら最終目標は、日常生活に耐えうる機能回復である。おそらく、再建術後、歩行機能が劇的に回復するか否かは、受傷部より下部の脊髄神経機構が、状態よく残存していることが鍵となる。そのためには、再建術前まで、麻痺領域を支配する脊髄を含めた中枢神経系の退行を防ぎ、歩行に関わる神経回路網を維持・促進させておくことは、再建術後の機能回復を最良のものにするためにも重要であろう。この視点は、今後、再生医療が目を向けねばならない新たな課題でもある。 そこで今年度は、ヒトの歩行に関わる脊髄神経機構の活動性をさらに促進させる方法について検討した。特に、独立した2つの末梢神経を同時刺激することによって反射反応を検討する空間促通法(Lundberg,1985)を用いることにより、ヒト共通介在ニューロンの存在と律動運動時(上下肢ステッピング運動)におけるその活動動態について検討を行った。その結果、各神経からの共通入力を受けるヒト脊髄介在ニューロンの活動およびその存在として解釈できる結果が得られた。また、この結果は安静状態では観察されなかった。このことは、歩行に関連した下行性指令および感覚入力がこの標的介在ニューロン群の活動に重要な役割を持つことが明らかとなった。これらの結果は、上肢および下肢の複合運動がこれらの介在ニューロンの活動を引き起こすことが考えられ、今後これらのニューロン活動が可塑的性質を持つのか否かについては重要な検討課題となる。
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