19世紀フランスの小説家・批評家であるバルベー・ドールヴィイと自然主義とのかかわりにかんする調査および研究発表(2010年10月に南山大学において開催された日本フランス語フランス文学会)をおこなった。本発表は、ゾラをはじめとした自然主義文学者たちとの激しい応酬で知られ、「遅れてきたロマン主義者」として同時代の潮流との乖離を強調されることの多かったバルベー・ドールヴィイが、そうした潮流を批判するかたわらで自らの美学に取り込んでいった過程を解き明かすものである。女中や娼婦を主人公にした小説を書いたゴンクール兄弟を「文学における最悪のデモクラシー」と批判し、テーマが下賎であるほど小説家の力量が間われるとしたバルベーは、『罪のなかの幸福』『老いたる情婦』『ある女の復讐』において、こうした階級に降りることをおそれない高貴な女性たちを描いた。下層の人々を描くことを可能にした自然主義の土壌を逆手にとることで、バルベー・ドールヴィイは生涯のテーマであった「情熱」の美学をより鮮烈に表現していたことを論じた。現在はフランス国立図書館で19世紀末から20世紀初頭の作家たち(とりわけプルースト、アナトール・フランス、リラダン等)に関する資料を渉猟しながら、論文の執筆に取り組んでいる。複数の作家を扱うテーマ研究を進めていくにあたって、それぞれの作家の作品および関連する研究成果を丁寧に読み込み、詳細でありつつ視野の広がりをもった研究を続けていきたい。
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