本年度は、研究計画に従い、北アフリカの諸遺跡の研究に取り組んだ。 その主たるテーマは、3世紀の北アフリカ諸都市が求め碑文に刻んだ「自由libertas」の意味である。まずは、この問題に関する先行研究をまとめたうえで史料を精査した。先行研究では、その「自由」が免除特権という内実を伴うものだったのか、あるいは単なる名誉称号にすぎないのか、議論が分かれている。私自身は前者の立場に立って研究を進めており、11月15日に立教大学で開催された2009年度西洋史研究会大会の場において、「『危機』の時代の北アフリカ」という題目で報告を行った。この報告は「3世紀の『危機』再考」という共通論題報告の一環であり、南川高志(京都大学)・阪本浩(青山学院大学)両教授の司会で進められたシンポジウムは、本研究を進める上で非常に有意義なものだった。 なお、これに先立ち、8月下旬から9月上旬にかけチュニジアとイタリアへの調査旅行を行った。チュニジアでは受け入れ研究者である本村凌二教授(東京大学)や坂口明教授(日本大学)をはじめとする一行とドゥッガやブッラ・レジアなどの遺跡をまわり、ラテン碑文の実物を現地で調査する機会に恵まれた。碑文の置かれた場や刻まれた石や文字の状態から「碑文習慣」の衰退を考えようとする本研究においては極めて重要な調査であり、その成果は上記の報告に活かされている。 9月下旬には渡仏し、パリの国立科学研究センター・『碑文学年報』部門で研究に従事している。フランスでの受け入れ研究者であるM.Corbier教授をはじめ、J.-M.Carrie(社会科学高等研究院)、Y.Le Bohec(パリ第4=ソルボンヌ大学)、X.Dupuis(パリ第10=ナンテール大学)といった研究者のゼミに出席し意見交換を行っている。2010年2月3日には、パリの西洋古代史研究の拠点の一つであるCentre Gernet Glotzで研究発表の機会を与えられ、《La reforme administrative de Diocletien et les cites africaines》という題目で報告を行い、本研究の意義を確認することもできた。
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