1、比較政治学ないしは比較社会科学の先行研究のサーヴェイを行い、単に医療保険の制度を比較するのではなく、日仏の官僚組織の性格とその政治家との関係に着目した医療保険改革の比較政治学の枠組みを形成した。特に、日仏において医療保険改革を主導してきたアクターとその発想(idea)の違いに着目して、両国における最近の政策の分岐の説明を試みた。これによって、研究目的・研究実施計画のうちの中核的な部分について前進することができた。日仏比較の最初の成果は『レゾナンス』誌上、ヴェルサイユ大学での研究発表、東京大学でのリサーチ・コロキアム(博士論文執筆資格審査に相当)において発表した。 2、医療保険改革がしばしば国家と市場の対立軸において捉えられるのに対して、中央-地方関係という側面に焦点を当ててフランスを含むヨーロッパ五ヶ国の比較研究を行い、フランスでは官僚主導の下で現在に至るまで集権的な枠組みが維持されてきたことを明らかにした(『ヨーロッパ研究』に掲載確定)。 3、フランスの医療保険改革をめぐる政治の中心的なアクターである国家(政府・議会)と社会(労使)の関係の変遷に着目し、1990年代以降いかにして国家(特に官僚機構)が労使に対する優位を確立してきたかを解明した(『ソシオロゴス』に掲載確定)。以上の2と3の研究成果によって、フランスにおける医療保険改革の具体的な展開を複数の側面から分析することができた。 4、フランスに渡航し、パリ政治学院とヴェルサイユ大学にて資料収集および現地の研究者との情報交換を行うことができた。
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