| 研究概要 |
(1)イトウの回遊履歴の推定
イトウの飼育実験(淡水,汽水,海水)において各塩分段階における耳石Sr:Ca比を把握し、この結果をもとに北海道猿払沿岸のイトウの回遊履歴を推定した。降海型イトウの多くは生活史の大部分を汽水・沿岸域に依存しており、また淡水、汽水、海水を行き来する個体も確認されたことから、産卵域である河川上流域から沿岸域にわたる広範な水域を回遊していることが示唆された。以上の成果により、河川河口域及び沿岸域の保全、また移動の妨げとなる河川横断工作物についての検討及び改善がイトウの保全策の鍵になることを示すことができ、イトウの生態に関する基礎知見だけでなく、イトウの保護策の立案に寄与できたと考えている。
(2)鱗を用いた生息環境履歴の推定
淡水及び海水の飼育実験で得られた個体の鱗を用い、鱗の成長線である隆起線に生息環境が反映されているかについて検証した。飼育期間における鱗縁辺部の隆起線のSr量は、淡水飼育個体に比べ海水飼育個体の方が有意に高く、鱗の隆起線のSr量がそれぞれの飼育環境を反映している可能性が示唆された。また、隆起線の局所定量化を行うために、薄切標準試料を作製した。作製した標準試料は、0-500ppmの濃度範囲で良好な検量線が得られ、淡水・海水飼育個体における隆起線のSr濃度を明らかにすることができた。以上のことから、隆起線単位で生息環境を推定できる可能性が示唆された。イトウのような希少種においては、魚体へのダメージを最小限に抑える研究手法の開発が望まれており、本研究の成果は希少種研究の観点からも重要な知見である。
(3)イトウの胃内容物調査
H.22年度は、収集した降海型及び陸封型イトウについて、その胃内容物を調査した。胃内容物や食性に関する知見は少なく、特に海洋生活期の食性についての知見は皆無であり、本研究はイトウの食性に関し、重要な知見を示すことができたと考えている。
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