本研究はsiをベースとしたspin-MOSFETの実現に向けて、Si基板上に室温でも磁化したシリサイドナノワイヤ(NW)の作製条件の探査とスピンデバイスへの応用を目的としている。シリサイドをワイヤ状にすることで、スピンデバイスにおいて必要な磁化方向の制御が容易になると推察される。本年度は、理想表面の低対称性によりNW作製の基礎基板として注目されているSi(110)表面を用いて、室温でも磁化したシリサイドNWの作製条件の探査を中心に研究を行った。 過去、Si基板上に直接成長した強磁性シリサイドNWとしては、温度2KでのFeシリサイドNWのみである。我々はまず、FeシリサイドNWにCoを添加することで、キュリー点を室温まで高めることを試みた。三元合金化するために、清浄化したSi(110)表面にFeとCoを共蒸着した。作製したNWをエネルギー分散型X線分光法で組成を測定した結果、各ワイヤ1本1本からFe、Co、Siの3つのピークが測定され、FeCoシリサイドNWの作製に成功した。 このFeCoシリサイドNWの磁化状態を、磁場を可視化できる電子線ホログラフィー(EH)を用いて、室温で測定した。このような形状異方性が強い材料では、磁気エネルギーを安定化するための還流磁区構造が形成できずに真空中に漏洩磁場が生じると考えられる。電子線の入射方向とFeCoシリサイドNWが垂直の場合、真空中に漏洩磁場は測定されないが、平行に近付けた場合、明確な漏洩磁場が測定される。このことからワイヤの長手方向と垂直に磁化していることが結論付けられる。以上の結果から、室温以上のキュリー点を持つ強磁性シリサイドNWをSi基板上に直接成長させることに初めて成功し、FeCoシリサイドNWがスピンを利用した実デバイスへの有益な材料であることを示した。
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