私は他者の運動が自身の運動に及ぼす影響を調査するために、運動学習過程に関わる情報処理についての研究を行った。平成21年度の研究実施状況は以下の通りである。1)本研究は定型発達児童と比較してADHD、アスペルガーの児童らにおける顕在的な視覚運動系列の獲得過程を調査した。結果は発達障害児群の方が同じエラーを繰り返しやすく、系列を完全に正確に押せるようになるまでに時間がかかるという傾向を示したが、正確さと速度の向上パターンや向上度などは定型発達児と類似していた。これらの結果は発達障害児において日常的な状況では運動実行が一見苦手に見えるが、顕在的な視覚運動系列学習のプロセスが障害されているわけではないことを示した。この研究成果は学術雑誌であるExperimental Brain Research、小児の精神と神経に投稿されており、また国際学会であるEuropean Conference on Visual Perceptionで発表される予定である。2)本研究では決まったルーチンの繰り返しによって慣れた行動を修正する必要がある場合の、以前の行動パターンの痕跡が残る期間について調査した。その結果、運動抑制と運動実行とを異なるcueと連合させて学習させた後に、これらの連合関係を組み替えると、エラー数や反応時間の増加がみられた。ただし反応時間の遅延は課題の組み替え前の休憩時間に関わらず示されたが、エラー率の増加は30分休憩後にはほぼ示されなかった。この理由として、運動の抑制と実行に関わるシグナルの制御システムが独立して機能している可能性と、どちらも同一システム内で制御され、各シグナル強度の割合や立ち上がりのタイミングが休憩時間によって異なることで、表出される傾向も異なるという可能性が考えられる。これらは今後の研究で検討していく必要がある。これまでの結果は日本心理学会で発表する予定である。
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