研究概要 |
本研究では,リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)を用いた新規ドラッグデリバリーシステムの構築を目指した。L-PGDSは,血中ヘム代謝産物であるビリベルジン(BV)等の疎水性低分子を高親和性に結合することが報告されている(Inui, T et al.J.Biol.Chem.2003)が,L-PGDSの疎水性低分子結合様式は解明されていない。また,L-PGDSは脳脊髄液中に多く分泌されており,クモ膜下出血時には一過性的にその濃度が上昇し,BVやその類縁体と結合し排除することが明らかとなっている。本年度は,L-PGDSの生理的な役割と疎水性低分子結合様式を解明するために,多次元NMR法およびX線小角散乱法を用いたマウス由来L-PGDS,及びL-PGDS/BV複合体の構造解析を行った。X線小角散乱測定の結果,BV結合に伴いL-PGDSの慣性半径が1.3Å小さくなることが判明した。また,NMR法を用いたL-PGDSに対するBVの滴定実験を行った結果,BV結合によりβバレル全体,及びβバレル上部のループ領域に位置する残基由来のシグナルに変化が見られた。以上の結果より,L-PGDSはBVをβバレル内部に結合し,ループ領域の構造を変化させ,コンパクトになることが明らかとなった(Miyamoto, Y et al.J.Struct.Biol.2010)。これは,L-PGDSの構造柔軟性が幅広い疎水性低分子選択性を可能にしていることを示している。次に,NMR法を用いて,実際に臨床で用いられている抗不安薬ジアゼパム(DZP)とL-PGDSの結合部位を調べた。その結果,L-PGDSがDZPをβバレルの上部に結合することが明らかになった。今回同定した結合部位の残基に変異を導入することでDZPに対して親和性の異なる改変タンパク質の作製が可能になると考えられる。
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