研究概要 |
本研究では,リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)を用いた新規ドラッグデリバリーシステムの構築を目指している。これまでに,本蛋白質が,脳虚血時に神経細胞死抑制効果を持つことが知られている難水溶性薬剤NBQXの水溶液中の濃度を向上させ,NBQX/L-PGDS複合体の静脈内投与により,前脳虚血を施したスナネズミの海馬CA1領域における遅発性神経細胞死を抑制できることが見い出されている。本DDSのヒトへの応用にはヒト由来L-PGDSの使用が望まれるが,ヒト由来L-PGDSの難水溶性薬剤結合機序は解明されていない。昨年度に引き続き,本年度はヒト由来L-PGDSの立体構造の精密化,および本蛋白質と難水溶性薬剤NBQXの相互作用の解析を行った。多次元NMRスペクトル解析することによりヒト由来L-PGDSの立体構造計算を行ったところ,本蛋白質は8本のβストランドから構成されるβバレル構造と1本の3_<10>ヘリックス,2本のαヘリックスを持つことが判明した。次に,^1H-^<15>N HSQCスペクトルを用いてL-PGDSに対するNBQXの滴定実験を行った結果,NBQX濃度の増加とともに,いくつかのHSQCシグナルが屈曲を伴いながらシフトした。滴定曲線をtwo site binding modelを用いて解析した結果,2つの結合部位における解離定数は,それぞれ10.4μM,及び1170μMと求められた。1つ目,及び2つ目のNBQX結合によるケミカルシフト変化の情報を基に,HADDOCKプログラムにより複合体のモデル構造を計算したところ,ヒト由来L-PGDSは2分子のNBQXをβバレル内部に結合することが判明した。以上の結果から,L-PGDSは複数の難水溶性薬剤をβバレル内部に結合できることが判明し,この特性は本蛋白質のDDSのキャリヤーとしての可能性を強く示鎖している。
|