研究概要 |
本研究の目的は,溶液中に存在する様々な金属化学種を,ESI-MSを用いてその溶存状態を保ったまま測定すること(スペシエーション)である.平成21年度の当該研究においては,Alの基礎的なスペシエーションをさらに発展させ,以下の3項目について重点的に研究を行った. 1 Al化学種の検出機構のまとめ:化学種が溶液から気相中に導かれる際に,化学種間の平衡が変化しないかについて検討を行った.その結果,イオン化における系内の変化(濃度変化,pH変化など)は瞬間的なものであり,Al化学種間の平衡を変化させないことがわかった.このことは,化学種間の平衡を乱さずに,各化学種を測定できることを示しており,ESI-MSによる金属のスペシエーションの可能性を広げたと言える. 2 Al化学種の反応性の評価:金属のスペシエーションにおけるESI-MSの利点として,測定時間が短いことが挙げられる.Al化学種の時間変化を追うことで,ある化学種からある化学種への化学形態の変化,つまり化学種の反応性を考察することができる.そこで,中和に伴うAlの13量体の生成の時間変化を明らかにすることで,この化学種の生成経路を考察した.その結果,1量体から13量体が生成する過程で,中間体として5量体が反応に関与していることを明らかにした. 3様々な金属への応用:様々な金属を測定できることがESI-MSの特長であり,アルミニウム以外の金属についても,溶液中の化学形態を明らかにすることができる.そこで,地球化学的に重要な金属である鉄・マンガンについて,単純な水溶液中でのこれらの金属イオンの化学形態を考察した.まず,過塩素酸イオン(支持電解質として用いられており,金属と相互作用しないと考えられている)の共存下における鉄イオンの化学形態ついて検討したところ,鉄イオンの価数(Fe^<2+>,Fe^<3+>)によって,とり得る化学形態が大きく異なることがわかった.また,Fe^<2+>がFe^<3+>に酸化される過程において,化学種の組み換えが起きていることを示した.
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