研究概要 |
本研究の目的は,溶液中の金属化学種を,その溶存状態を保ったまま測定すること(スペシエーション)である.平成22年度は,当該研究期間の総決算と位置づけることができる,そこで,これまでのデータを基に,水圏環境中で金属が関わる現象の新しい情報を得ることを目的とした. 1,アルミニウムイオンによる共沈現象の分子レベルの解析:Alは鉄やマンガンと同様に,他の金属を伴って沈殿(共沈)する.そのため,物質の循環,例えば海水からの微量元素の除去機構に大きく関わっている,そこで,沈殿に至る過程における,アルミニウムイオン(Al^<3+>)とクロム(III)イオン(Cr^<3+>)の相互作用についてESI-MSを用いて解析した.その結果,複数の金属が共存することにより,Al^<3+>単体,Cr^<3+>単体では形成されない複核の錯体が形成することがわかった.今後解析を続けることで,実際の河口域における共沈現象などについて,これまでの測定法では得られない分子レベルでの情報を得ることができると考えている. 2,鉄(III)と有機配位子との錯形成:溶液中の金属の化学形態を明らかにできるESI-MSの特性を活かして,天然水中の有機配位子と鉄との錯形成に関する知見を得ることを考えた,まずは天然水中の有機配位子のモデルケースとして,クエン酸と鉄の錯形成をESI-MSで観察した,その結果,鉄にクエン酸が作用することによって,クエン酸が存在しない場合とは異なる鉄化学種が存在し,その結果,鉄の溶存・沈殿特性が大きく変化することがわかった. 当該研究の最大の特長は,濃度の変化など,従来マクロな視点でしか考察されなかった自然現象を,分子レベルで考察することを可能にした点である.金属の化学種を決定する手法は以前から存在したが,当該研究により,測定対象となる金属の種類,測定感度,得られる情報の量や質が飛躍的に改善された.
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