本年度の研究とその成果は、2つに大別される。 ひとつは、20世紀フランスの作家ミシェル・レリスに関する研究である。 本年度5月に、昨年度(2010年3月)東京大学へ提出した博士論文「交流のための自伝-ミシェル・レリス『ゲームの規則』読解」についての口頭審査を受けた(これにより博士号を取得)。そこでの質疑応答を踏まえ、大幅な加筆訂正をおこなったうえで、同大学に8月、最終版を提出している(大学および国会図書館に収蔵)。 その内容は、レリスの長大な自伝『ゲームの規則』全4巻を扱ったものであり、言語的探求から始まったこの自伝が、その探求の対象を文学のもつ実存性をめぐる問いや、自分自身の死のオブセッションなどへと変えていき、さらにはこうした探求自体がそもそもなにをめざしたものなのか、そしてなにを得られたのか自問を繰り返していく(レリス自身は、ほぼ決まって否定的な答えしか表向きは提示していないのだが、精読すればそうとは言い切れない)さまを「交流」という概念を軸に据えつつたどっていった。また形式的にもきわめて息の長い実験的な文体から、最終巻では大きく装いを変え断章形式を採用した点にも注目し、その意義を考察した。 本年度の研究のもうひとつの柱は、レリス研究を出発点にそこから展開した、自伝(的)文学一般に関するものである。とりわけ、真実を語ることが原則となるべき自伝文学にも含まれうる虚構性、幻想性の存在理由や役割を、エルヴェ・ギベールの自伝的小説『ぼくの命を救ってくれなかった友へ』を題材に考察した(この場合、死に関する領域の想像、および著者の叶わなかった願望の表象として描かれている)。その成果は紀要論文に掲載予定である。
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