3年間の最終年度となる本年度の研究内容とその成果は、2つの方向に大別できる。 ひとつは、研究課題の原点ともいえるミシェル・レリスに関するものである。とくに、レリスと同時代の作家・思想家であるジョルジュ・バタイユに関する記事を依頼されたこともあり、レリスから見たバタイユ、あるいは両者の比較、影響について研究を進めた。彼らの公私にわたる交流は、幾度かの対立を経ながらも1930年代にもっとも高まりを迎える。バタイユの愛人でレリスの親友でもあったコレット・ペニョの死をめぐって、いわば死による高次のコミュニカシオンをともに体験したことで、両者が比類なき一体感で結ばれたことを諸文献・資料から証明した。 それ以上のインパクトある出来事が戦後にはなかった両者の関係であるが、1956年にレリスの母が死去した折、バタイユがレリスに送った書簡は注目に値する。レリスと自分(バタイユ)を結びつける「やさしさの感情」が、レリスと母の関係に、あるいは「死」にも近いものだというのだ。この手紙にレリスは謝意と賛意を示し、かくある「やさしい悲痛」の状態はペニョの死以来であるという。 バタイユにおける死による究極的なコミュニカシオンという概念には、個の抹殺をも厭わぬ悪魔的な印象があるかもしれないが、両者のやり取りを見る限りそれは「やさしさ」の体験にほかならない。 本年度の研究のもうひとつの柱は、レリス研究を出発点にした、自伝(的)文学一般に関するものである。 真実を語ることが原則となるべき自伝文学にも含まれうる虚構性、幻想性の存在理由や役割を、エルヴェ・ギベールの自伝的小説『ぼくの命を救ってくれなかった友へ』を題材に考察し(本作の場合、死に関する領域の想像、および著者の叶わなかった願望の表象として虚構が描かれている)、昨年度論文を提出したが、それに加筆・訂正をしたものが本年度刊行の紀要(『言語態』)に掲載された。
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