研究概要 |
自分のことを考えること,すなわち「自己注目」は抑うつと関連する不適応的な素因であると考えられてきた。しかし自己注目にはこうした不適応的な側面(反芻)に加え,抑うつの抑制につながる適応的な側面(省察)もあると考えられている。抑うつを抑制するためには不適応的な自己注目を取り除き,適応的な自己注目を促進すればよいと予想されるが,本研究ではこうした自己注目の相反する2側面に焦点を当て,ネガティブ感情や抑うつとの関連を検討した。まず,日常生活の中で,自己注目が実際にどのように機能しているかを検討するために,思考形態と感情状態との関連を調べた。その結果,自己注目時の思考形態が抽象的な場合には,より高いレベルのネガティブ感情と関連するが,一方で,思考形態が具体的な場合には低いレベルのネガティブ感情と関連することが明らかとなった。このことから,抽象的思考法ではなく具体的思考法をトレーニングにより獲得することで,ネガティブな感情反応を抑制することができると考えられる。また,同様に日常生活の中で,より不適応的な自己注目とされる反芻がいつ生じやすいのかを検討したところ,抑うつ傾向が高い人において,夕方から夜にかけて反芻が生じやすいことが明らかとなった。この結果から,夕方から夜にかけての考え込みは,睡眠を阻害するなどの心身に対する悪影響を有していると考えられる。従って,こうした夜型の反芻を行わないように生活習慣を改善することで,心理的適応を促進できるものと予想される。
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