BSEPは肝臓に発現し、肝細胞内の胆汁酸の胆汁中への排泄に関与しているトランスポーターである。BSEPによって胆汁中へと排泄された胆汁酸は浸透圧差を形成することで水分の分泌を促し、胆汁流を形成する。そのため、BSEPの輸送機能の低下は、胆汁流が滞った状態である胆汁うっ滞状態を引き起こす。この病態の原因となるBSEPの機能低下は、主に機能部位である細胞膜上での発現量低下が原因であることが明らかとされているが、その詳細な機構は不明であるため、年間5000~10000例程の症例があるにもかかわらず、内科的療法はウルソデオキシコール酸による対症療法のみであり、内科的療法が効かない患者に対しては肝移植以外に治療法が存在しない。そのため、本研究室ではBSEPの細胞膜上発現制御を直接のターゲットとした創薬を目指して研究を進めている。 そこで、私は、創薬における標的の同定を行うため、BSEPの細胞膜上での発現を制御するメカニズムの解析を行うことにした。その中で、私はBSEPの「パルミトイル化」というタンパク修飾に着目して研究を行った。パルミトイル化は炭素差数16のパルミチン酸がタンパク質のシステイン残基に結合する修飾であり、その存在自体は古くから知られているものの、生体内における役割については、現在においても不明な点が多く、特にトランスポーターに対する機能に関しては全く不明である。 私はこの未知の修飾機構に焦点を当てて研究を進め、BSEPがパルミトイル化修飾を受けていること、そして予備的な検討ではあるものの、パルミトイル化修飾がBSEPの発現量ではなく輸送機能そのものを直接的に制御していることを明らかにした。BSEPの輸送機能を直接的に制御する機構というのは新規の発見であることから、今回得られた知見は非常に有益なものであると考えている。
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