私はBSEPという胆汁うっ滞の原因遺伝子の細胞膜上での発現制御機構を解明すべく、パルミトイル化というタンパク質の翻訳後修飾に焦点を当てて研究を行っていた。パルミトイル化の生体内での役割については、不明な点が多く、今後の研究発展が強く望まれている。私はこの未知の修飾機構について研究を進め、BSEP以外にもABCG1というABCトランスポーターもパルミトイル化修飾を受けていることを見いだした。ABCG1は血管内皮細胞やマクロファージなどの末梢細胞に多く発現し、それらの細胞内からのコレステロールの排泄に関与するトランスポーターである。特に、酸化コレステロールの細胞外への排泄を行うことで、動脈硬化の防御因子として機能していることがノックアウトマウスを用いた研究から報告されており、その生理学的重要性が注目を集め始めている。また、細胞膜上に発現すればそれによって機能を発揮するBSEPと異なり、ABCG1を介したコレステロールの輸送については詳細な機能発現機構は不明であるものの、ABCG1の細胞膜上での発現だけではなく、細胞内での局在も重要な役割を果たしていると考えられている。そこで、私はBSEPと並行してABCG1の輸送機能の発現機構とそれに対するパルミトイル化の役割を解明することでABCトランスポーター全般におけるパルミトイル化の役割を解明する目的として、研究を進めている。これまでの研究から、パルミトイル化修飾がBSEP、ABCG1の発現量ではなく輸送機能そのものを直接的に制御していることを明らかにした。ABCトランスポーターの輸送機能を直接的に制御する機構というのは今のところ全く報告がないことから、今回得られた知見は非常に有益なものであると考えている。
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