私は昨年度より申請した研究題目とは異なる内容で研究を行っているが、大規模なスクリーニングを行い、有用な阻害剤を得るという本質的な目的に変わりはない。 昨年度、Autotaxin(ATX)の阻害剤を得る目的で8万サンプルを用いた大規模なスクリーニングを行い、非常に強い阻害活性を持つ阻害剤を取得できたことを報告した。ATXはがんの血管新生に関わっていることが報告されているなど非常に創薬のターゲットとして興味深いと考えられる。本年度は昨年度に引き続き阻害剤の最適化を行った。まず、元のヒット化合物の類縁体を50種類程合成し構造活性相関を得た。有用な化合物についてはATXとのX線共結晶構造解析を行い、阻害剤とATXの結合様式を確認した。マウスやヒト血漿を用いたin vitroの阻害実験に加えて、mouseに静注するなどin vivoの実験も行い、血中のLPA濃度が低下することが見出され、様々な実験系における阻害剤の有用性を確認することができた。さらに、ATX過剰発現ゼブラフィッシュを用いた実験系において、ATX過剰発現に基づく表現型異常を阻害剤でレスキューすることにも成功した。最後に、疾痛モデルマウスを用いて、実際に疾患の治療薬としての潜在能力について検討した。すると、阻害剤を添加することでマウスの神経性疼痛を抑制することができることが示唆され、本格的に本阻害剤が治療薬として有用である可能性が高いと考えられる。
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