本研究は、動脈硬化などの疾患を惹起する要因の一つとして示唆されている活性酸素種(ROS)を生体内で可視化することにより、ROSの生理機能解析法を開発することを目的としている。申請者は、これまでに生体の深部で測定可能な近赤外蛍光を利用したROS検出蛍光プローブの開発に成功した。そこで、本年度は以下の三点について研究を進めた。1.開発した蛍光プローブを急性腹膜炎モデルに応用することで、生きた動物個体中においてROSを可視化することに成功した(Oushiki et al.J.Am.Chem.Soc.)。本蛍光プローブはROSの生理機能を解明するための強力なツールであり、ROS研究の進展に大きく寄与するものである。2.他の病態イメージングへと展開するために、蛍光プローブの体内動態を制御する手法の確立を目指した。具体的には、開発した蛍光プローブおよび新規に開発したローダミン系色素を母核とするROSプローブを抗体にラベル化することを試みた。局在を制御したROSプローブを用いて、生体中でROSを検出したという報告はこれまでになく、達成されれば意義は極めて大きい。3.さらなる生体深部組織からの信頼性の高い計測を目指し、プローブの高機能化に向けた基礎検討を行った。具体的には、核磁気共鳴画像法(MRDを組み合わせることとし、色素のタンパク質結合性をMRシグナル変化の機構として利用することを試みた。そのために、まずは母核の候補となる色素の探索を行い、スクアリン酸系色素が強いタンパク結合性を有し、血清中において高い蛍光量子収率を示すことを明らかにした。また、スクアリン酸系色素にMRIの造影剤であるGd(III)のキレーターを導入する合成法の検討を行った。現在は、スクアリン酸系色素のタンパク質結合性を制御する分子設計法、MRシグナル制御への応用可能性について検討を行っている。
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