研究概要 |
フォトニック結晶ナノレーザはデバイス表面が空気中に露出しており,さらに光励起による遠隔動作が可能であるため,デバイス周囲の屈折率変化を発振波長の変化として検出できる.したがってデバイスに吸着したごく微量のタンパク質やDNAを検出するための超小型(<10μm)かつ高感度なバイオセンサとして利用できる.私はこれまでにナノレーザの連続動作による屈折率センシングや水中温度無依存化を実証してきたが,今年度はナノレーザによるタンパク質吸着の高分解能センシングの実証とその性能向上を目的として研究してきた.まず本研究室で確立された半導体加工プロセスによってGaInAsP量子井戸基板を加工し,構造揺らぎ5nm満の高精細なフォトニック結晶ナノレーザを製作した.デバイス表面に化学処理を施すことでタンパク質(牛血清アルブミン)を非特異的に吸着させて,その前後の発振波長を測定した.その結果,平均で2-3nmの波長シフトが観測された.これよりナノレーザによるバイオセンシングを実証した(世界初).きらに発振波長を逐次記録することで,タンパク質の吸着過程をリアルタイムに観測した. デバイスの性能をさらに向上させるために,幅30-100nmの微細なスリット構造を導入したナノスリットナノレーザについても製作・評価した.本構造におけるモード体積は波長立方の0.018倍と極微小であり,さらにモードの大部分がスリット中に局在化しているため,バイオセンシングにおける感度の向上と水中温度無依存化の両立が可能となる.実験でも約2倍の高感度化,30倍の水中温度無依存化,タンパク質吸着のセンシングを実証した.これらの実験的な特性は解析値とほぼ同様な傾向を示したことから,観測されたモードはスリットに依存したモードであると考えられる.
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