研究概要 |
医療診断,創薬,健康管理,食品分析といった分析を低コストかつ高速化するための技術として,Lab-on-a-chipやμ-TASといった微小な流路や反応室をベースとした分析装置への搭載に向けた簡易かつ高感度なタンパク質センサーの開発が急務となっている.申請者は昨年度に引き続き,幅30nmしかない極狭のナノスロットをもつフォトニック結晶ナノレーザ(以下,NSナノレーザ)によるバイオセンサーの研究を行った.NSナノレーザはその発振波長の変化から周囲の屈折率変化や生体分子の吸着を検出する.さらに光励起による遠隔動作が可能で,また水中温度依存性が小さいため,バイオセンシング応用によく適している. 本デバイスを製作し,牛血清アルブミン(BSA)というタンパク質の濃度に対する波長シフト量を調べた.μg/mlの高濃度な溶液中では数nm程度の大きな波長シフトが観測された.一方ng/ml未満のごく低濃度な溶液中でも0.5nm程度の波長シフトが再現性よく示された,一方,NSのないデバイスではわずかな波長シフトしか観測されなかったことから,本現象にNSが寄与していることは明白である.さらに励起光強度が強いほど低濃度における波長シフトが顕著になった.測定直後にSEM観察したところ,NSの内部や周囲への明瞭なタンパク質吸着が認められた.これより,レーザー光がタンパク質の吸着を誘導している要因である可能性が高まった.現象の定量的考察を通して,現在新たな論文を執筆中である.タンパク質濃度に対する波長シフト量の実験結果はLangmuirの吸着等温式によくフィッティングし,検出限界濃度は17pg/mlが見積もられた.これは一般的な表面プラズモン共鳴センサーの100-1000倍の感度に相当する. 以上の結果は非特異吸着に関するものだが,一方で抗原抗体による特異吸着の検出についても研究してきた.初期的な抗原抗体反応モデルとしてよく利用されるビオチン・ストレプトアビジンを用いた初期実験では,ビオチン修飾された基板でのみ明確な波長シフトが観測されたことから特異性を立証した.
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