昨年度までに、私は過酸化水素を高感度に検出することが可能な蛍光プローブNBzFの開発に成功した。そこで今年度は、その生物学応用における実用性を実証するため、生細胞から産生される過酸化水素を蛍光顕微鏡下でのイメージングによって検出できるか実験を行った。実際には、細胞材料としてRAW264.7マクロファージおよびA431ヒト類表皮がん細胞を用いた。NBzFによって染色したRAW264.7マクロファージをホルボールエステルの一種であるPMAで刺激したところ、細胞内にエンドソームの形成がみられ、その内部で蛍光シグナルが上昇する様子をイメージングすることができた。この蛍光シグナル上昇は、過酸化水素の発生源であるNADPH oxidaseの阻害剤Apocyninや過酸化水素の消去剤Ebselenで処理することで抑制されることから、過酸化水素を検出していることが確認された。A431細胞を用いた実験系は、NBzFで染色した細胞を増殖因子の一種であるEGFで刺激した。刺激を行った細胞では、細胞内の蛍光シグナルが刺激開始から20分以内に急速に増大し、過酸化水素が産生される様子がイメージングされた。以上の結果から、NBzFは複数の細胞系で問題なく機能することが示され、実用上の有用性が実証された。特にA431細胞の実験系は、過酸化水素がシグナル伝達因子として働いていると考えられている系であり、NBzFが細胞内シグナル伝達研究においても有用なツールとなることを示唆する結果である。
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