研究概要 |
我々が作出した、赤色蛍光タンパク(humanized Kusabira-Orange : huKO)を発現するトランスジェニック(tg)・クローンブタのトランスレーショナル・リサーチへの利用を最終目的として、本年度はその繁殖能力の検証ならびに後代産仔の解析を行った。huKO-tg・クローンブタ(雌)は、7ヶ月齢時に初回発情を迎え、その後19-23日の周期的な発情を示した。wild-type雄精子による人工授精(2回)で受胎し、19頭の産仔が得られたことから、繁殖能が正常であることが確認された。レトロウィルスベクターによって遺伝子導入されたtg・クローン個体(founder)は、ゲノム上の5~7箇所にhuKO遺伝子がそれぞれ1コピーずつ組み込まれていると考えられるが、後代(G1)産仔への遺伝子伝達は、メンデリズムに近い動態を示すことが明らかとなった(tg産仔率:57.9%)。このことから、導入遺伝子の多くが、同一染色体上に組み込まれている可能性が示唆された。G1産仔6頭を剖検し、脳・心臓・肺・胃・腸・肝臓・膵臓・脾臓・腎臓・膀胱・生殖器・骨格筋・軟骨・骨・皮膚・眼球の16種の臓器・組織において赤色蛍光発現を確認した。さらに系統保存を目的として、G1産仔雄の精巣上体精子の凍結保存を行い、それを用いてG2世代への遺伝子伝達(40.0%,10/25)および全身性赤色蛍光発現の継承を明らかにした。以上より、1.huKO-tg・クローンブタが正常な繁殖能力を有すること;2.クローン個体の有性生殖によって作出されたG1産仔にも外来遺伝子が安定に伝達されること;3.後代産仔にもfounderクローン世代と同様の全身性赤色蛍光発現が継承されることが明らかとなり、huKO遺伝子導入ブタの遺伝子伝達・発現に関する知見の蓄積と、系統化のための精子の凍結保存という成果が得られた。
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