二年度目となる本年においては、日本学術振興会とドイツ研究者協会の共同プログラムである「日独共同大学院」の海外滞在旅費援助を利用し、ドイツのハレ・ヴィッテンベルク大学に客員研究員としての長期滞在を行った(2010年4月から2010年10月まで)。当大学では第一哲学部政治学科のHarald Bluhm教授(政治哲学)を受入教員とした。プログラムの性格上、主にエルンスト・ユンガーおよび保守革命思想家の政治・社会批判的な側面および歴史思想的な側面に焦点を当て、昨年度に引き続き研究を行った。 研究成果としては、学会およびそれに準じる場所で、上記の二側面に対応して二つの口頭発表を行った。「ポストモデルネにおける歴史の地位」はユンガーの歴史哲学に焦点をあてたものであり、ユンガーがハイデガーの記念論文集に寄稿したエッセイ『歴史的時代の終焉について』を基に、しばしば指摘されるリオタールらポストモダン思想との類似を検討しながら、後期ユンガーにおける歴史観を解明した。「革命的動物-ドイツ保守革命と獣性の省察」はユンガーの社会批評と哲学史との関連の解明を目的としたもので、『内的体験としての闘争』『労働者』などのユンガーの戦間期の代表的なエッセイについて、ニーチェや生の哲学を継承しつつ、そこに人間動物化論と人間機械論を導入したものとして読解を試みることで、ドイツ保守革命が、その人間観・自然観において「革命的」とされる所以を明らかにした。 これらの研究はいずれも歴史・伝統という保守革命と不可分のカテゴリーに属するものであり、翌年度のテーマである保守革命における独自の哲学史受容の解明の、前段階をなすものである。
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