本研究は、18世紀末から19世紀はじめにかけての対仏戦争期において、福音主義者の国内政治との関わりが、奴隷貿易廃止運動や海外宣教運動をはじめとする彼らの帝国問題への関わり方にどのような影響を与えていたのかを、福音主義者の人物誌的研究に基づいて明らかにしようとするものである。第二年度目は、第一年度の調査によって示唆を得た帝国ネットワーク論に基づいて、さらなる研究動向の把握に努めると共に、基本的な一次史料の検討作業を継続した。まず、福音主義者の活動をイギリス帝国史全体の中に位置づけるために、福音主義およびイギリス帝国史に関する研究文献の検討を継続した。宣教を支持する博愛主義者のネットワークに関しては、当時のインドにおいてネットワークのひとつの結節点となり、本国に送る情報の収集という面でも重要だった東インド会社のチャプレンに焦点を当てて検討を進めた。東インド会社チャプレンについての本格的な研究はほとんど存在しないため、この検討は研究史的な意義を有するだろう。さらに、研究文献および一次史料の調査か、帝国ネットワーク論の三本柱のひとつである入植者のネットワークについても十分な検討が必要であることが判明した。インドにおける入植者社会についての研究は、特に本研究の対象とする1830年代以前に関しては非常に少ないが、この検討は、インドを白人定住植民地との比較史の中で検討するという新たな研究視座を開拓するという意義も有しているだろう。入植者ネットワークが宣教に関して統治者ネットワークおよび博愛主義者ネットワークとどのような関係にあったのかを検討する作業を進めている。
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