これまで細胞質ダイニンは2つの頭部が交互に力発生することで、微小管上を二足歩行していると予想されてきた。しかし私は、一方の頭部をモーター活性を完全に失った「死んだ」頭部に代えても、元の4割程度の速度で微小管上を二足歩行するという現象を見いだした。このような挙動は従来のモデルでは説明できないため、片足が死んだダイニンの歩行様式を詳細かつ定量的に調べることで、分子モーターの新たな動作機構を発見できると期待される。 本年度、私はまず全反射型蛍光顕微鏡を用いてダイニンの運動を詳細に追跡した。観察には量子ドットを用い、ナノメートルオーダーの正確さでダイニンの位置を決定した。その結果、片足が死んだダイニンも野生型ダイニンとほぼ同じステップサイズで運動していることが明らかとなった。このことは死んだ足と生きている足を交互に前方へと移動させてダイニンが運動していることを示唆している。ダイニンがどのような運動機構でこの移動を行っているのか知るために、さらなる詳細な検討が必要である。 また死んだ頭部はそれ自身では微小管から解離しないため、ダイニンが前方に進むためには正常な頭部が死んだ足を微小管から引き剥がすことが必要だと考えられる。その際には、2つの頭部が物理的に結合している尾部を介して分子内張力がかかっているものと予想されたため、柔軟なリンカーを挿入することで尾部を介した分子内張力を低減させたダイニン組換え体を作製した。その組換え体の運動の様子を観察したところ、片足が死んだダイニンでも野生型でもリンカー挿入による影響はなかった。したがってダイニン分子内の2つの頭部は尾部以外の部分でも、直接相互作用していることが示唆された。これらは2つの頭部が協調して微小管上を長距離運動するというダイニンの性質の分子機構を調査するうえで非常に重要な知見である。
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