細胞質ダイニンは一分子で微小管から解離することなく長距離進行することができるモータータンパク質である。この性質を達成するためには、ダイニンは二つの頭部を協調的に運動させる必要があり、本研究はダイニンがいかにして二つの頭部を協調させているのか明らかにすることを目的としている。 本年度、私は 1.尾部を介した張力を低減させたダイニンでも、実際に二つの頭部を交互に前方へ移動させているか、あるいは両方の頭部とも微小管の中の一本のプロトフィラメント上を進行するのか 2.どのような向きで2つの頭部が並んでいるのか という2点について調べるため、二つの頭部に異なる波長の蛍光を発する色素を結合させ、各頭部の動きを同時に高精度で追跡する、あるいは蛍光エネルギー移動(FRET)を用いて一分子内の2つの頭部管の距離を測ることを試みた。その結果、高い時間・空間分解能で2つの蛍光色素または量子ドットを追跡する顕微鏡システムのセットアップに成功し、現在、徐々に運動中の2つの頭部の振る舞いに関するデータが得られつつある。 このデータが十分量得られたならば、これまで未知であった細胞質ダイニンのステップ機構が明らかになるだけでなく、2つの頭部間での制御機構についても、どの領域を介して制御が行われているのかなど、具体的に記述することが可能になると期待される。特に2つの頭部管での制御に関しては、ダイニンが属するAAA+ファミリーには2つのAAAリングを結合させて機能するものが存在するため、ダイニン研究のみならずAAA+ファミリーの機能発現研究においても大きなインパクトを持つものと予想される。
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