研究概要 |
本研究は,シロアリにおける兵隊分化抑制機構の至近的メカニズムを解明することを目指し,主な材料としてヤマトシロアリReticulitermes speratusを用いて,(1)兵隊へ分化する過程の職蟻に与える,既存兵隊による影響の解析,(2)兵隊から職蟻へ伝達される候補プライマーフェロモン(Soldier Inhibiting Factor, SIF)の探索と同定,(3)シロアリ類における兵隊分化調節機構の多様性と進化の理解を目的としている。 平成22年度は,職蟻から前兵隊への分化過程において,兵隊が与える遺伝的・行動的変化に関する解析を行った。兵隊存在下で職蟻に幼若ホルモン(JH)を与えて兵隊分化を誘導し,兵隊によるJH量の減少が確かめられている時期に個体をサンプリングしてRNAの抽出を行った.JH関連遺伝子の発現解析を行ったところ,兵隊の存在によってアラトスタチン前駆体遺伝子の発現量が減少することが示された.アラトスタチンはアラタ体でのJH産生を抑制する神経ペプチドで,兵隊はJHの合成系を抑制する可能性がある.また,投与JHの有無や兵隊の同居によって個体間のコミュニケーションがどのように変化するかをビデオ観察によって調べたところ,職蟻のJH量が高いと兵隊とのコミュニケーションが増加する可能性が示唆された.この行動的変化により,兵隊-職蟻間のフェロモン授受が頻繁に起こるようになるのではないかと考察される. これらの研究成果はシロアリの個体間コミュニケーションによって引き起こされる相互作用の詳細に迫る上で重要な知見となることが期待される.
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