本研究は、「社会性の進化」の究極要因に迫ることを目指すものである。社会性・食性及び系統の異なるシロアリ類及びゴキブリ類の多数の種を用い、(1)栄養交換行動の実態と(2)機能的意義を明らかにしてそれらを比較し、社会性進化における栄養交換行動の重要性に関し総合的に考察する事を目的とする。 本年度は、材料であるシロアリ類(ヤマトシロアリ・ネバダオオシロアリ)と食材性ゴキブリ類(キゴキブリ・エサキクチキゴキブリ・オオゴキブリ)を得るため、日本各地で野外調査を行い、生息状況を調査し、サンプルを十分に採集することができた。 成果としては、(1)では、木材内部で生活するシロアリ類や食材性ゴキブリ類の行動を暗条件下で観察する実験系を確立し、シロアリ類の生殖虫が幼虫に対して行う栄養交換行動の詳細やコロニー発達に伴う頻度の変化を観察することができた。また、エサキクチキゴキブリの成虫が若虫に対して行う栄養交換行動の詳細を初めて捉える事にも成功した。シロアリ類の社会性の収斂進化モデルであるクチキゴキブリ属では、親子間に栄養交換行動がある事は既に簡単に報告されていたが、その詳細を明らかにして映像に記録したのは本研究が世界で初となる。(2)では、ヤマトシロアリの女王と王における木材消化酵素の詳細な遺伝子発現解析を行い、コロニー発達に伴う発現変動を明らかにした。これにより、親である女王と王は、ワーカーの数によって木材消化酵素の発現レベルが柔軟に変わり、恐らくそれは幼虫への栄養交換の負担の変化と関係している事が示唆されだ。タンパクレベルでの解析では、本研究室内で実験を行う設備を整え、食材性ゴキブリ類における木材消化酵素の消化管内における局在を、SDS-PAGEとウェスタン・ブロッティング法や免疫組織染により明らかにした。シロアリ類とは違い、近縁な食材性ゴキブリにおける報告(消化酵素の局在や木材消化の中心等)はほとんどなかった。
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