ヒストンは、真核生物のクロマチンを構成するタンパク質であり、その多様な翻訳後修飾は、遺伝子発現調節を始め、老化、癌化、細胞周期など様々な現象に関わる。細胞刺激をしたときにヒストン修飾がどのように変化するかを調べるために、前年度までにヒストンH3リン酸化修飾の変化をリアルタイムで観察できる系の構築を行った。そこで今年度では、この系をヒストンH3のメチル化やアセチル化に応用し、蛍光標識Fabを生細胞に導入し観察した。FRAP (fluorescence recovery after photobleaching)解析の結果から、様々なFabのクロマチンへの結合時間(t1/2)は、それぞれ数秒から数十秒程度であり、この値は蛍光標識Fabが生細胞観察に堪えうるかどうかの指標となることがわかった。つまりt1/2が長い蛍光標識Fabほど、生きた細胞での観察に適しており、特にt1/2が長い場合はマウス胚でも可視化ができることがわかった。作製した蛍光標識Fabのうち、ヒストンH3リジン9番目のアセチル化を認識するものを細胞に導入し、ここに脱アセチル化酵素の抑制剤であるトリコスタチンA(TSA)を加えた。その結果、H3リジン9番目のアセチル化の増加に伴い、蛍光標識Fabが核内に集積していく様子を観察することができた。またアセチル化の増加とともに、同じ転写活性化修飾であるヒストンH3K4のメチル化は増加していることもわかった。一方で、このアセチル化の増加とともに、転写の不活性化に働くH3リジン9番目のジメチル化修飾の量は減少していた。さらに、培地からTSAを除くことによって、アセチル化は減少しメチル化は回復することから、TSAの有無によって、遺伝子発現制御レベルでのクロマチンの状態が変化していたと推測される。
|