TRPは、6回膜貫通領域を有する非選択性陽イオンチャネルである。その中で、カプサイシン、熱刺激や酸刺激により活性化するTRPV1と、冷刺激やワサビ・シナモンの辛味成分により活性化するTRPA1は、侵害刺激および温度の受容体として重要な役割を果たしている。本研究では、両者が共発現する感覚神経細胞があることに着目し、両者の機能的な連関による侵害刺激受容のメカニズムがあるという新規の仮説を検証している。培養細胞にTRPV1のみ、TRPA1のみ、あるいは両受容体を発現させた異所性発現系にパッチクランプ法を適用して、電気生理学的機能を解析した。その結果、TRPA1リガンドであるアリルイソチオシアネートを適用すると、TRPA1のみ発現する場合よりTRPA1とTRPV1の両受容体を発現する場合に大きい活性化電流が認められた。上記の結果は、マウスより単離した感覚神経細胞を用いた解析でも観察された。また、アリルイソチオシアネートによるマウスの疼痛関連行動が、TRPA1欠損マウスのみならず、TRPV1欠損マウスでも減弱していることが観察され、TRPA1の機能的発現にTRPV1が関与することと合致する結果が得られた。TRPV1とTRPA1が機能的に連関している可能性を分子のレベルおよび個体のレベルにおいて示した本研究結果は、侵害刺激受容の分子機構を明らかにする上で非常に重要であると考えられる。今後は、TRPA1タンパク質の発現量やTRPA1活性を調節する因子に対するTRPV1の関与について解析を進め、このメカニズムを明らかにする予定である。
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