本研究の目的は、カメルーン東南部の熱帯雨林帯でおこなわれている焼畑農耕の生態基盤に焦点をあてながら、マクロな政治・経済状況がその生態基盤にどのような影響を及ぼしているのかということについて、近年、調査地域において現金収入源として拡大しつつあるカカオ栽培の事例をもとに明らかにすることである。 本年度はこれまでの調査結果をもとにデータ分析と文献研究を進め、その成果を学会発表、及び投稿論文において発表した。カカオ栽培は森林を農地化することによって拡大してきたが、カカオは庇蔭環境を好むため、一般的には森林は皆伐されず、伐り残した樹木や人びとが植え付けた樹木が庇蔭樹として利用されてきた。このようなカカオ栽培の実践、およびカカオ畑の景観は「カカオ・アグロフォレスト」と呼ばれ、生物多様性を保全する役割を果たすものとして注目されている。論文では、カメルーン東南部のカカオ畑を対象とし、カカオ樹以外の樹木の樹種構成、およびその創出過程を分析するとともに、他のカカオ栽培地域でおこなわれた先行研究の結果と比較しながら、調査地のカカオ・アグロフォレストにおける樹木の多様性を評価した。その結果、調査地のカカオ・アグロフォレストでは多様性の高い植生景観が形成されていることが明らかになった。その要因として、1)様々な樹種で構成される原生林がカカオ畑を造成する場となっていること、2)人びとは庇蔭樹の存在が不可欠であると強く意識しているものの、どの樹種を伐り残すべきかの判断には個人差が大きく、特定の樹種の選抜が起こりにくいこと、3)カカオ畑の造成後に侵入するパイオニア種の存在が種数の増加に貢献していること、以上の3点を指摘した。
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